このような場合には、患者自身の免疫を十分高めることによって、腫傷を破壊するようキラーT細胞に働きかけることができるかもしれない。
これが、現在進行中の試行実験を支えている原理である。
ここでは子宮頚癌の患者は、体のなかで増殖せず、腫傷細胞の表面に低レベルでしか存在しないウイルスたんぱく質を高レベルで産生するように遺伝子工学的に設計されたウイルスによって、免疫性を与えられるのである。
この方法によって、腫傷細胞を認識して殺すに足るだけT細胞を増やすことができるかもしれない、というのが私たちの希望なのである。
また別の場合には、すでに議論してきたように、ウイルス関連腫傷は免疫性の弱まった人たちに発生し、そしてここでは、腫傷細胞は、正常人ではキラーT細胞に対する引き金の役を果たしているウイルスたんぱく質を提示しているかもしれない。
したがって何よりもなすべきことは、衰えている免疫系を回復することである。
そしてこのことは、免疫抑制剤の投与を減らし、T細胞を再び正常に活動させることによって、移植臓器をもった人たちにおいてときおり可能なのである。
しかしながら、医師たちはたびたびジレンマに陥っている自分自身に気づく。
大量に免疫抑制剤を投与して、腫傷の増殖を許すか、あるいは、免疫抑制剤をほとんど与えずに腫傷を縮小させて殺すが、生命維持に欠かせない移植した心臓や肺や肝臓を失うか。
致命的な結果にならずに失うことのできる唯一の臓器は腎臓であり、ここにおいて患者と医師は、腫傷を取り除くためには免疫抑制剤の投与を完全に中止し、移植腎臓を犠牲にする価値がある、と決定するかもしれない。
近年、EBV感染細胞だけを認識して殺すキラーT細胞のクローンを実験室で増殖させることが可能になっている。
テネシー州メンフィスにあるY病院の医師グループは、このクローンを使用して、EBVによって引き起こされた腫傷の骨髄移植患者を治療する方法を開発した。
現時点では、この方法は日常的な治療に使用するには余りにも時間と費用がかかりすぎる。
しかしながら、キラーT細胞は冷凍器に保存しておくことができるので、「スペアパーツ外科」(移植手術)が日常的になるときがくるかもしれない。
そのときになれば、患者が、移植手術のまえに、すべての厄介なウイルスを認識する自分のT細胞を冷凍器に保存しておき、あとでそれを使用して感染を防止することができるであろう。
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